AAPA+ジンジャン東京 『雲の涯(はたて)』 【'06年3月17日-21日】
AAPA+ジンジャン東京 『雲の涯(はたて)』 【'06年3月17日-21日】

> 公演写真 *別窓で開きます

<あらすじ>
 戦後まもなく。舞台となるのは、古い民家を改造した小さな個人医院。戦争で頭に傷を負った順之助は、復員して父親の医院を継ぐ。戦争での忌まわしい記憶とともに彼を思い悩ます、「古沼」のように澱んだ家の中の人間関係。彼は父親とその愛人が元凶と考え、看護婦の双葉に救いを求める。もがき苦しむ順之助は、そして双葉は、「古沼」の向こう、雲の涯(はたて)に何を見出すのか。

<登場人物>
露木順之助 二十八歳 医師 戦争で頭に銃弾を受ける
露木義順 六十五歳 医師 順之助の父
四宮双葉 二十七歳 露木医院の看護婦 戦争中、傷を受けた順之助を介護する
大野秀子 三十二歳 露木医院の元看護婦 モルヒネ中毒
川本登三 三十二歳 順之助の軍隊時代の上官
重藤昭男 三十五歳 医療用品の販売人

<作者>
田中千禾夫(1905~1995)
 長崎市に生まれる。文学座の設立に参加。代表作に『おふくろ』、『教育』、『マリアの首』など。戦後は俳優座に加わり、文体の研究や俳優養成にも力を注ぐ。『雲の涯』は、1947年、疎開先の鳥取で書かれた作品。白水社刊 『田中千禾夫戯曲全集 第一巻』収録。

出演 齊藤頼陽 中川玲奈 龍田知美 西堀慶 十亀脩之介 富山篤史
演出 齋藤啓
音楽 スズキクリ
美術 福嶋拓郎
衣装 安居院有佳
舞台監督 赤羽三郎
制作 上本竜平(AAPA)
企画 AAPA+ジンジャン東京
空間 山下公園レストハウス 『アウェイ箱庭』


『雲の涯』 演出ノート (齋藤 啓)

 『雲の涯』には、戦後すぐの山陰地方という明確な舞台設定がある。
 しかし、実際に読んでみると、まるで欧米の近代戯曲を読んでいるような印象を受ける。

 自我をめぐる内面の葛藤を繰り広げる順之助と自由奔放な双葉の二人は、例えば、チェーホフの『かもめ』に登場するトレープレフとニーナと著しく重なって見えてくる。そこに描かれているのは、「自分は何者なのか」と自らに問いかける「個人」の姿だ。と同時に、他者を求めながらもそのことを自己の確立と両立できないでいる彼らには、「自分探し」を続ける現在の日本人と同じ「甘え」が見え隠れしているように思える。

 以前から、時代性と地域性を伴った日本語の現代戯曲を上演してみたいと思っていた。普遍的なテーマを見つけやすい翻訳作品や抽象的な内容のものと違って、戯曲と作り手、あるいは観客との間に「遠さ」と「近さ」の両方が感じられるのではないかと思ったからだ。

 休憩所という劇場とは程遠いこの場所で演劇を上演するとき、リアリズムの装いをまとったこの作品は、最も似つかわしくないものかもしれない。だが、そこに生ずる違和感ゆえに、日常の生活空間の新たな可能性を探る今回の公演に最もふさわしいといえるのではないか。
 1947年の山陰の小さな町と2006年の横浜の間には、どんな距離が存在するのか。六十年前の話を忠実に再現しようなどとは思っていない。ただ、我々の上演が、この山下公園の中により本質的な「リアルさ」をもって響いてくれたら、と思う。

【齋藤 啓  SAITO KEI 】
 2001年よりジンジャントロプスボイセイ(代表 中島諒人)の活動に参加。一方で、舞台照明会社に五年間在籍し、演劇、ミュージカル、ダンスなど多くの舞台作品に関わる。2005年6月、代表・演出・照明として劇団内ユニット「ジンジャン東京」をジンジャントロプスボイセイのメンバーとスタート、テルプシコール(東京・中野)にて第一回公演『予告された殺人の記録』(原作G・ガルシア・マルケス)を行う。

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